中國「稅徴収管理危害の刑事事件における法律適用の若干問題に関する司法解釈」
中國「刑法」には、當局の稅徴収管理を害する行為として計14の罪名が規定されている(脫稅罪、輸出還付稅騙取罪、インボイス虛偽発行罪など)※1。
これらの構成要件の認定と量刑基準の統一を図るため、2002年、最高人民法院及び最高人民検察院(以下「両高」という)は、「輸出還付刑事事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(法釈〔2002〕30號、以下「30號法釈」という)や「脫稅抗稅刑事事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(法釈〔2002〕33號、以下「33號法釈」といい、30號法釈と併せて「舊法釈」という)などの司法解釈を制定した。
もっとも、近年、越境Eコマース、ライブコマースなど新しいビジネスモデルの臺頭に伴い、稅徴収管理に舊法釈の制定當時に想定されていなかった新しい問題が生じている。かかる変化に対応するため、2024年3月15日、両高は「稅徴収管理危害の刑事事件における法律適用の若干問題に関する解釈」(法釈〔2024〕4號、以下「新法釈」という)を公表した。新法釈は、2024年3月20日に施行され、舊法釈は同日廃止された。
新法釈は合計22條からなり、構成要件、量刑の前提となる金額の基準など刑法の適用に関する重要なルールを定めている。本稿では、脫稅罪、未納稅金追徴逃避罪、輸出還付稅騙取罪に関する新法釈の內容を簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用條文は新法釈の當該條文を指すものとする。
■脫稅罪についての法解釈
刑法第201條では、納稅者が詐欺又は隠蔽手段を講じ、虛偽の納稅申告を行い、又は申告せず、脫稅金額が比較的大きくかつ納めるべき稅額の10%以上を占めた場合、脫稅罪に該當する旨が定められている。また、脫稅金額が巨額でかつ納めるべき稅額の30%以上を占めた場合、より重い法定刑が科されることになる。新法釈では、下線部分に該當する行為の內容や金額の基準が明らかにされた。
まず、「詐欺又は隠蔽手段」については、「裏契約」等の方法で所得や財産を隠匿又は複數の者に分散する行為、特別付加控除※2の水増し行為、虛偽の資料を提出して稅優遇措置を受ける行為、原価に係る証憑を偽造する※3行為といった典型的な行為が列挙され、構成要件に該當するか行為がより具體的に示された※4(第1條1項)。
次に、「比較的大きく」「巨額」については、それぞれ脫稅額が10萬人民元又は50萬人民元以上の場合を指すものとされ、金額の基準が示されている(第2條)。
また、「申告せず」について、設立登記を行う必要のない場合(例えば自然人)や設立登記を行っていない納稅者(例えば駐在員事務所や非居住者企業)の場合は、稅務當局の通知を受けたにもかかわらず、なお申告しないケースが該當する(第1條2項2號)。
なお、刑法では、脫稅行為に対して、稅務當局から追納通知を受けた後、納稅すべき稅金及び滯納金を納付し、行政処罰(一般的には罰金であることが多い)を受けた場合は、刑事責任を追及しないものとされている(刑法第201條4項)※5。実務的には、稅務當局の追納通知が行政処罰とともに送達され、送達日から15日以內に稅金、滯納金、罰金を納めるケースが多い。この點について、新解釈では、稅務當局からの追納通知がなければ、刑事責任を追及しない旨が規定されている(第3條2項)。
■未納稅金追徴逃避罪についての法解釈
刑法第203條では、納付すべき稅金を納付せず、財産の移転又は隠匿の手段を講じ、それにより稅務機関に未納の稅金を追徴するすべを失わせ、金額1萬以上である場合、未納稅金追徴逃避罪に該當する旨が規定されている。
新解釈では、次の行為が財産の移転又は隠匿手段に該當するものとされており、行為の內容が具體的に明示されている(第6條)。(1)期限が到來した債権を放棄する行為、(2)財産を無償で譲渡する行為、(3)明らかに不合理な価格で取引を行う行為※6、(4)財産を隠匿する行為、(5)稅務徴収義務を履行せずかつ稅務當局の監督管理を脫離する行為、(6)その他の手段により財産を移転又は隠匿する行為。
新法釈を前提にすると、未納稅金が存する場合、仮に真実の取引行為であっても、稅務犯罪に抵觸する可能性があるため、注意を要する。
■輸出還付稅騙取罪についての解釈
刑法第204條では、輸出虛偽申告又はその他の欺罔手段により國の輸出還付稅を騙取し、金額が比較的大きい場合、輸出還付稅騙取罪に該當する旨が定められている。また、騙取金額が巨額又は特に巨額である場合、より重い法定刑が科されることになる。
新法釈では、次のような行為が、輸出虛偽申告又はその他の欺罔手段に該當するものとされており、行為の內容が具體的に明示されている(第7條1項3號~7號)。(1)他人の輸出業務を冒用して輸出稅還を申告する行為、(2)貨物の輸出後、國內に転入し又は國外の同種貨物を國內循環輸出に転入して輸出還付を申告する行為、(3)輸出製品の機能や用途などを虛偽報告し、稅金還付政策を享受しない製品を稅金還付製品として申告する行為、(4)偽造や変造された売買契約、偽造や変造などの違法な手段で取得された通関単、運輸書類等を用いて輸出還付を申請する行為。
新解釈では、「比較的大きい」「巨額」「特に巨額」については、それぞれ輸出還付稅額が10萬人民元以上、50萬人民元以上、500萬人民元以上の場合を指すものとされ、金額の基準が示されている(第8條)。
■おわりに
新法釈は、本稿で述べたほかに、インボイス虛偽発行などの適用基準も詳細に示している。中國では、発行事業者が稅務局に申請することではじめてインボイスを入手できることから、特に増値稅専用インボイスの虛偽発行が認定された場合、少額であっても犯罪行為に該當することに注意を要する。企業の法務コンプライアンス上、輸出入貿易や國內一般取引においてインボイス管理を適切に行うことも重要な事項である。
※1 現行刑法は、1997年の施行後12回改正されており、稅徴収管理を害する行為も改正の対象となっている。例えば、2009年「刑法改正案(七)」により脫稅罪が改正され、2011年「刑法改正案(八)」によりインボイス虛偽発行罪が刑法第205條の1に追加された。なお、計14の稅徴収管理を害する行為のうち、4は稅金に関する行為(刑法201條~204條)であり、10はインボイスに関する行為(205條~210條の1)である。
※2 中國國務院は、2018年12月に「個人所得稅特別付加控除暫定方法」(2019年1月1日施行)を公表し、子女の教育、継続教育、重病治療、住宅ローン利子または住宅賃貸料、老人扶養など6つの特別付加控除を定めた。また、2022年3月に國務院「3歳以下乳幼児介護個人所得稅特別付加控除の設立に関する通知」により、新たに3歳以下乳幼児介護個人所得稅特別付加控除が追加されている。
※3 例えば、株式譲渡の対価が6000萬元であるにもかかわらず、2000萬元と記載した株式譲渡契約をもって納稅申告を行った((2019)內0303刑初17號刑事判決)ケースでは、「原価に係る証憑を偽造する」(中國語「編造虛偽計稅依拠」である)行為に該當すると認定されている。
※4 稅徴収管理法第63條及び33號法釈では、納稅者が「帳簿、記帳証憑を偽造、変造、隠匿、無斷で廃棄する行為」、「支出を虛偽に増加し、又は収入を記入せず若しくは過少記入する行為」、「稅務機関から申告通知を受けたにもかかわらず納稅申告を拒否する行為」、「虛偽の納稅申告を行うこと又は虛偽輸出申告その他の詐欺手段で納付した稅金を騙し取る行為」が示されていた。
※5 ただし、當該規定は、5年以內に脫稅で刑事責任を受け、又は稅務機関から2回以上行政処罰を受けた者については適用できない(刑法第201條4項ただし書)。
※6 「『民法典』契約編通則適用の若干問題に関する解釈」(法釈【2023】13號)第42條によれば、譲渡価格が取引時の取引地における市場取引価格又は指導価格の70%未満の場合は「明らかに不合理な低価格」に該當し、30%超の場合は「明らかに不合理な高価格」に該當するものとされている。






