中國『民事訴訟法』第5次改正について
2023年9月1日、中國全人代常務委員會において『中華人民共和國民事訴訟法の改正に関する決定』※1が採択された。これを受け、改正民事訴訟法(以下「改正法」という)が2024年1月1日から施行される。中國『民事訴訟法』は、1991年4月9日の成立後、4回(2007年10月、2012年8月、2017年6月、2021年12月)にわたって改正が行われており、今回は5回目の改正である。改正法では、主に第四編「渉外民商事訴訟手続の特別規定」(特に渉外民商事訴訟事件に対する裁判管轄権の拡大、裁判文書の中國域外への送達や中國域外にある証拠の取調べ方法の修正、國際訴訟競合への対応、外國判決?仲裁判斷の承認及び執行等)について新たなルールが設けられた。
本稿では、渉外民商事訴訟手続に関する改正法のポイントを紹介する。なお、特に表記しない場合、引用條文は改正法の該當條文を指すものとする。
■ 渉外民商事訴訟事件に対する裁判管轄権の拡大
中國では、裁判管轄地として被告地主義が採用されている?,F行法では、契約紛爭又はその他財産権益に係る紛爭により、中國領域※2に住所を有しない被告に対して訴訟提起された場合、契約の締結地又は履行地、目的物所在地、差押に供することができる財産の所在地、代表機構の住所等が中國領域內にあれば、これらの所在地や住所に関係する人民法院が管轄権を有する旨定められている(現行法第272條)。
これに対し、改正法では、対象となる紛爭を「身分関係に係る紛爭を除いた渉外民事紛爭」に拡大するとともに、①権利侵害地が中國領域內にある場合、②紛爭が中國と適切な関連を有する場合も人民法院が管轄権を有する旨規定されている(276條1項、2項)。
また、當事者雙方が書面により合意した場合、人民法院を管轄裁判所として選択することができる旨の規定が追加された(第277條)。これにより、中國と適切な関連を有していない場合でも、合意さえあれば、人民法院の管轄権が認められることになる。
更に、人民法院が専屬管轄権を有する事件として、現行法に定めている中外合弁経営契約等の履行に起因する紛爭のほか、(i)中國領域內で設立された法人等の設立、解散、清算及び當該法人等が行った決議の効力等に起因する紛爭、(ii)中國領域內で権利化される知的財産権の有効性に起因する紛爭が新規で追加されている(279條)。
なお、『外國國家免責法』(2023年9月1日公布、2024年1月1日施行)第7條によると、外國國家は原則として司法管轄から免除されるところ、商業活動等非主権的な行為に起因する訴訟については、人民法院による管轄が認められている(305條)。
■ 裁判文書の中國域外への送達や中國域外にある証拠の取調べ方法の修正等
まず、渉外民商事裁判文書の中國領域外への送達について、改正法は?全國法院渉外商事海事審判業務座談會會議紀要(2021年)?の規定を踏襲している。すなわち、現行法では、外國當事者への送達について、訴訟代理人の委任狀に裁判文書の代理受領が明記されていなければ、代理人宛に裁判文書を送達することができなかった。
これに対し、改正法では、中國領域に住所を有しない當事者について、訴訟代理人?中國の現地法人?中國國內に所在する外國法人や現地法人の法定代表者又は主要責任者(例えば、董事、監事、総経理)への送達を認め、電子方法による送達も認められた(283條1項4號~7號、9號)。また、これらの方法を採れない場合の公示送達については、公示送達期間が従來の3ヶ月から60日に短縮されている(283條2項)。
次に、中國領域外にある証拠の取調べについて、人民法院は、當事者の申立てにより、次の方法を採用できる旨の規定が設けられた(284條)。①中國籍を有する當事者?証人に対し、その所在國の中國大使館や領事館に依頼する方法、②雙方當事者の同意を得てSNS等を通じて行う方法、③雙方當事者が同意したその他の方法。
『民事訴訟法』の第4回改正では、電子方式による送達?公示等訴訟手続のオンライン化が推進された。改正法では、中國域外への送達と証拠取調べにも電子方法が認められることになり、裁判手続効率化の更なる促進が期待される。
■ 國際訴訟競合についての規則の追加
改正法は、同一紛爭について人民法院と外國裁判所がいずれも管轄権を有し、當事者の一方が外國裁判所に提訴し、相手方當事者が中國法院に提訴する場合、または一方が外國裁判所と中國法院に同時に提訴する場合の対応を規定した(280條~281條)。
1. 當事者間で管轄合意により外國裁判所を選択し、かつ中國の専屬管轄に反することなく、中國の主権?安全?社會公共利益に影響を及ぼすことのない場合、人民法院は訴訟を受理せず、または既に受理した訴訟を卻下することができる。
2. 同一紛爭について外國の裁判所が先に訴訟を受理した場合、法に定める事情※3がある場合を除き、人民法院は、當事者の申請により訴訟手続を中止することができる。
また、改正法では「不便宜法廷地(Forum non convenience)」※4の考え方が抗弁事由として明記されている。すなわち、紛爭の基本的事実が中國域內で生じておらず、人民法院において審理を行うことが著しく不適切である場合、人民法院は訴えを卻下し、原告に対しより便利な外國の裁判所に訴訟提起するよう告知することができる(282條)。
■ 外國判決?仲裁判斷の承認及び執行
まず、外國確定判決の中國における承認?執行申立ての許容性は、相互承認の原則により判斷される(『民事訴訟法』298條)。この點について改正法は、人民法院が外國確定判決の承認?執行を認めない事由を新たに規定している(300條)。
1. 當該外國裁判所が事件に対して管轄権を有しないこと※5
2. 被申請者が合法的な呼出しを受けず、若しくは呼出しを受けたとしても合理的な陳述及び弁論の機會がないこと、又は訴訟能力のない當事者が適切な代理を得ていなかったこと
3. 判決?裁定が詐欺の方法により取得されたこと
4. 同一紛爭について、人民法院が既に確定判決?裁定を下しており、又は第三國の裁判所が下した確定判決?裁定が中國で既に承認済みであること
5. 判決?裁定が中國法の基本原則又は國家の主権?安全?社會公共の利益に反していること
次に、外國仲裁判斷への承認?執行について、被執行人の住所地又はその財産が中國領域內になくとも、執行申立人は自分の居住地又は紛爭と適切な関連を有する地の中級人民法院に承認?執行を求めることが可能となった(304條)。
■ おわりに
改正法は、渉外民商事訴訟事件に関する新たなルールを定めており、中國において又は中國企業とビジネスを行う外資企業にとって影響があるものと考えられる。そのため、改正法の內容や今後の実務動向を注視する必要がある。
※1 https://www.gov.cn/yaowen/liebiao/202309/content_6901570.htm
※2 『民事訴訟法の適用に関する解釈』(法釈[2015]5號)第551條は、人民法院は、香港?マカオ特別行政區?臺灣地區に係る民事訴訟事件を審理する場合、『渉外民事訴訟手続の特別規定』を參照して適用することができる旨規定しているため、「中國領域」は中國大陸を意味する(すなわち、香港?マカオ特別行政區?臺灣地區は含まない)。
※3?、佼斒抡撙弦猡摔瑜耆嗣穹ㄔ氦蜻x択した場合、②人民法院の専屬管轄に屬する場合、③人民法院で受理することが明らかに便利である場合が挙げられている。
※4 不便宜法廷地は『最高人民法院による「民事訴訟法」の適用に関する解釈(2022 年改正)』(法釈[2022]11號)第530條にも規定されているが、改正法は、同原則の適用範囲をより拡大し、中國法が適用されないことや中國國民や法人等の利益に関わらないこと等の制限を削除している。
※5 次のような場合が該當する(第301條)。①當該外國法に基づき管轄権を有せず又は適切な関連を欠く場合、②中國法の専屬管轄規定に違反する場合、③當事者による専屬的合意管轄に違反する場合。






